
basketballking
2026年10月19日(月)09:42

◆■プレシーズン初戦で21得点の好スタート…新天地クリッパーズへ早くもアジャスト
経験を生かすのか、無駄にするのか?それによって、将来は大きく変わる。
NBAキャリア8年目を迎える八村塁を見ていると、いかにこれまでの経験が彼を選手として、また人間として成長させてきたかがわかる。
オフコートの例を挙げると、自らが主宰し、今年2年目を迎えた次世代育成プロジェクトだ。
八村は、自らがNBAを夢見るバスケ少年だったころから、「ジョーダン・ブランド・クラシック」や、NBAオールスター期間中に同開催地で行われるBWB(バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ)などで、同世代のエリート選手らと肩を並べ、競い合ってきた。ウインターカップ3連覇を成し遂げた明成高校(現・仙台大学附属明成高校)卒業後、ゴンザガ大学という全米大学体育協会(NCAA)1部の強豪校で、NCAAトーナメントのファイナルフォーならびに決勝戦を経験した。NBA入りする前の3年生時には、全米1位にランキングされたチームをエースとして引っ張った。1巡目全体9位というハイピックでワシントン・ウィザーズに入団後は、チャーター機や五つ星ホテルなどの超VIP待遇を受ける一方で、過酷な移動と過密なスケジュールのなか、毎試合ベストパフォーマンスを発揮できるよう努力し、世界トップの選手たちとしのぎを削ってきた。
こういった経験があるからこそ、次世代の挑戦者に、世界最高峰とはどういうものかを余すことなく教え、夢を現実に変えるには「それだけの覚悟が必要だ」という意識を植え付けた。
日本代表では、「NBAの名門ロサンゼルス・レイカーズの中心選手として活躍してきた八村塁」ではなく、「ロサンゼルス・オリンピックに向けて一丸となる日本代表の一員」として、チームになじむことを何よりも優先した。もちろん、日本代表ではエースとなるが、八村はレイカーズでの経験を通じて、レブロン・ジェームズやルカ・ドンチッチというスーパースターが、自らの力だけで勝とうとしていない姿を見てきた。東京オリンピックやパリオリンピックのときの八村と、2年ぶりに日本代表に加わった今夏の八村との違いは、そういった経験から来ていることが感じられた。日本代表の試合を終えた後、ベンチ入りできず客席で見ていたチームメイトにコートに出てくるよう促したあたりは、八村のリーダーとしての真価を感じさせた。
そして夏が終わり、ロサンゼルスに戻ってきた八村は、引き続き「経験」を生かしている。
最初に直面した壁は、新たなチームへの「アジャスト」だった。八村自身、「(場所は同じロサンゼルスでも)変化は大きく、(アジャストは)決して簡単ではない」と言っていたが、実際に試合が始まってみると、その苦労をまったく感じさせなかった。前半のみの出場が決まっていたプレシーズンゲーム初戦の対ゴールデンステイト・ウォリアーズでは、15分12秒の出場で21得点をマーク。5リバウンド、1ブロックショットとディフェンスでも存在感を見せ、「経験だ。僕はこれまで3チームに所属した。今季で8年目で、プレーオフで何試合も戦ってきた」と胸を張った。
プレシーズン初戦で、それだけのプレーを発揮できたのは、キャンプ中から八村が心がけていたことが実を結んだことも挙げられる。
キャンプ序盤の練習やウォリアーズ戦前にコナー・ダンリービーアシスタントコーチ(AC)とシュート練習を行う八村を見ていると、コーチと話し合いながら練習を進めている姿が目についた。それは、自らを担当するダンリービーのみでなく、ティロン・ルーヘッドコーチ(HC)らチームの主要コーチも同じ。ダリアス・ガーランドが、「タイ・ルー(ルーHC)とは、よく話し合う」と言うように、ルーHC自身、選手とのコミュニケーションを大切にすることも重なって、コーチとの相互理解も深まり、ウォリアーズ戦後には、「タイ・ルーをはじめとするコーチ陣としっかりコミュニケーションを取ってきた。だからこそ、適切なプレーの選択や(プレーの)コールがなされ、僕も楽にシュートを打つことができた。コーチらのおかげだ」と充実感を漂わせた。
ダンリービーACと話をしながら練習を進める [写真]=山脇明子
◆■キャリアを支えてきた指導者との信頼関係…ルーHCは「一番コミュニケーションしやすい」
八村は、4年目のシーズン途中にウィザーズからレイカーズにトレード移籍した。シーズン後半という大事な時期にレイカーズが大幅に選手を入れ替えたこともあり、アジャストに苦しんだ。そんななか、八村を励まし、「一緒に頑張ろう」と常にそばにいてくれたのが、当時レイカーズのACだったフィル・ハンディ(現フィラデルフィア・セブンティシクサーズAC)だ。プレーオフ前に焦点を当てて、ハンディと日々練習を積んだ。その結果、シーズン終盤以降の八村の大ブレークにつながった。
ゴンザガ大のときもそうだ。今では親子のような関係であるマーク・フューHCと合わないと感じ、1年生のときには挫折しかけたこともあった。そのときに何度も八村に話しかけ、付き添ってくれたのが、現在アリゾナ大学HCで当時ゴンザガ大ACだったトミー・ロイドや当時同チームでデータ分析などを担当していたリカルド・フォイス現ニューヨーク・ニックスACだ。そういった経験も関係しているのであろう。「コーチとのコミュニケーションっていうのは、大事ですね」と八村。そして、「僕も今まで(NBAで)5人ぐらいのコーチ(HC)とやってきたけれど、そのなかでタイ・ルーは一番コミュニケーションしやすいコーチで、しっかりと選手の話を聞いてくれる。そういうところでは素晴らしいコーチだと思う」と、2016年のNBAファイナル、ウォリアーズ戦でクリーブランド・キャバリアーズを1勝3敗から3連勝させて優勝に導いた名将とのシーズンを心待ちにした。
八村は、プレシーズンゲーム3試合すべてでチーム最多得点をマークし、1試合平均17.0得点、4.3リバウンドを記録した。3ポイント成功率は61.5パーセント(8/13)と驚異の数字を残した。フィールドゴール成功率は51.6パーセント(16/31)、フリースロー成功率は91.7パーセント(11/12)とどれも高確率で、昨シーズンのプレーオフ、夏の日本代表戦に続き好調をキープ。執拗なディフェンスをものともせず、まるでゴールに導かれるような美しい放物線で、正確無比にシュートを沈め続けている。
若手に声援を送る八村。すでにチームになじんでいる様子だ [写真]=山脇明子
その理由を尋ねると、「経験だと思いますね。いろんな選手と戦ってきて、いろんなチームでやってきて、いろんなシチュエーションでやってきた。その経験が生きている。相手がどういうことをしてきたら(どうするとか)、アジャストですよね。ゲームのなかで、すぐにアジャストできるところが僕は得意。そういうところは経験から来ていると思う」と即答した。
新天地クリッパーズでいよいよ始まるシーズンに向けて、「オフェンスではアグレッシブに、ディフェンスではリバウンドをしっかり取ってプッシングしたりというところもあると思うけれど、チームとしても僕がすごく、今までにないぐらいに頼りにされていると思うので、責任感を持って、しっかりやっていきたい」と八村。
この「責任感」も、新たな経験として加えられていくのだろう。
文=山脇明子